来談者中心療法(クライエント中心療法)

当ルームで実践している療法の一つに、来談者中心療法というものがあります。
以下、簡単に解説させていただきます。

来談者中心療法とは?

アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャーズが創始した療法で、彼は、来談者(相談に来る人)を「クライエント(お客さま)」と呼び、問題や悩みの本質は、クライエント自身が一番理解していて、カウンセリングの主導権はクライエントにあるべきだとしたところから、来談者(クライエント)中心療法と名づけました。

そして、この療法は、人間の自己実現傾向(人間は、ありのままの自分を受け入れ、自分らしい生き方を見つけて成長していける)という仮説に基づいており、カウンセラーがクライエントの話を、あたかも自分自身のことであるかのように感じ取りながら真摯に聴いていけば、特にアドバイスや指示を与えなくとも、クライエントは自ら問題を解決し、自己実現していくとしています。

自己理論

来談者中心療法を説明する上で、ロジャーズが提唱した「自己理論」という考え方が重要となってきます。
この理論は、クライエントが不安定な状態になる原因は、a:自己概念とb:経験との不一致(自己不一致)にあると考えます。

自己一致と自己不一致状態についての説明図

a:自己概念とは、「自分がどういう人間でありたいか」といった理想的な自己像

b:経験とは、今まさに体験している現実の自己

c:自己一致とは、自己概念と経験が重なっている部分

自己一致する部分が少ない(逆からいうと、自己概念と経験のズレが大きい)状態を、自己不一致といって、その不一致の度合いが増すごとに、社会生活上での不適応や心理的な問題を抱えやすくなっていくのです。

例えば、Aさんは、

『仕事をテキパキとこなし、多くの人から頼られる人になりたい』という理想的な自己像(自己概念)を持っています。

自信と元気がある人

理想的な自己像(自己概念)

ところが、実際の仕事の場では、慎重な性格が仇となり、『上司から仕事が遅いと何度も注意されて、要領が悪い自分を嫌いになって、自信もない』という現実の自分がいます(経験)。

悩んでしまう人

現実の自己(経験)

自己一致に向かうためには

 さて、このAさん、どうしたら自己不一致状態から一致の方へ向かうことができるでしょうか?

来談者中心療法では、カウンセラーがクライエントに対等な立場で向かい合い、クライエントの話を肯定的に受け止め、共感的な理解をしていくことで、クライエント自ら、ありのままの自分に気づき(自己理解)、歪めてしまっていた自己を受け止め(自己受容)、自己実現傾向の発現により、自己不一致の状態から一致に向かうようになるといわれています。

Aさんは、カウンセラーとの対話を繰り返すことで、「仕事は、たしかに遅かったりするが、同僚からは、丁寧で助かっていると言われる。」「顧客からは、間違いが少なく安心して任せられると信頼を得ている。」など気づき、要領が悪いながらも精一杯やっている自分を受容することで、自己概念と経験とが一致(自己一致)する度合いが大きくなって、より生きやすさを感じられるようになるのです。

自己一致もしくは自己理解した男性

来談者中心療法のメリット・デメリットは?

メリット

・カウンセラーは、クライエントとの信頼関係の構築を第一に考え、クライエントの気持ちに寄り添いながら話を傾聴していくので、カウンセリングが初めてで不安な方や、抵抗感がある方なども、安心して悩みを打ち明けることができる。

・カウンセラーは、クライエントの『いま、ここ』での話を非指示的(クライエントに忠告・助言・解釈などの指示を与えない)態度で聴き、クライエントのありのままを受容していくので、クライエントは自らの問題に向き合いやすく、気づかなかった自分を深く理解したり、話を聴いてもらったことで気持ちがスッキリとする(カタルシス)効果を得られやすい。

・クライエント自身の潜在的な成長・自己実現していく力の発現を促しながら進めていくので、クライエントは自分に自信を持てるようになる。

デメリット

・カウンセラーは、非指示的に関わるため、「問題を解決するにはどうするべきか?」「何か具体的なアドバイスが欲しい」と思う人には、物足りなさを感じてしまうことがある。

・クライエントの話を聴くことを基調とするので、健康上の理由で話すことが困難な人、言語発達が未熟なお子さん、話すことに抵抗がある人などは合わないこともある。

・多くのカウンセリングの場で利用されている療法だが、本来は簡単に扱われるものではない。
ところが、背景にある理論から離れて、安易に『指示を与えず、単に話を聴いているだけでいい』技法として受け取り、誤解しながら相談業務を行っているカウンセラーもいる。

・クライエントの悩みに対して、たとえ、カウンセラーが解決案を持っていたとしても、クライエント自身が持つ潜在的な成長・自己実現する力を信じて、本人が自分のペースで解決方法に気づけるように進めていくので、問題解決に時間を要する場合がある。


 

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投稿者プロフィール

Kuramochi Yoshinobu
Kuramochi Yoshinobu~公認心理師・産業カウンセラー~
クラージュこころカウンセリングルーム(茨城県結城市)・代表